プロローグ



 『烈火鋼石』…。遥か昔、一人の錬金術師が完成させた代物。
 人を不老不死と為し、哲学者の石、天上の石、赤きティンクトゥラとも云われた『賢者の石』に続く秘宝中の秘宝…。
 『烈火鋼石』は炎を撒き散らし、その炎はまるで本当に生きた竜のように全てを焼き尽くした。そして、その炎は国一つ壊滅に追いやったとも云われ、もう一つ付いた二つ名が『滅亡の焔』。
 多くの国王がそれを手にしようと死力を尽くし、求め争った。そして、ただ一つの石のために多くの民の命が火の海へと消えていった。
 しかし、その大戦の中、一人の錬金術師と共に『烈火鋼石』は姿を消した。
 世界に平和が戻った。あの時までは…。
 大戦終了後、それから、約十年が経ったある日…。ある民家に天才錬金術師が生まれた。
 彼の名前はデイズ・フラスコ…。彼は自分の才能を活かし、病などで困っている人を助けた。性格は明るく、皆から好かれていた。また、国王からも信頼を受けていた。
 そんな彼にも愛しい人がいた。失いたくない大切なもの…。
 しかし、神は無情にも彼の大切なものを奪った。そう、彼女は事故に会い死んだ。
 その日以来、彼は変わってしまった。性格は暗くなり、部屋に閉じこもるようになった。
 それから、数年が経ったある日、彼は決意した。彼女を生き返らせよう。愛しい彼女を冷たい死の世界から救おうと…。
 彼は調べに調べた。あらゆる本を漁り、禁忌の術『蘇生』を探した…。
 そして、彼は見つけた。愛しい彼女を助ける方法を…。
 しかし、それは難題だった。世界のどこかにある八つの秘宝を必要とした。
 『賢者の石』血のように赤い不老不死の石。『烈火鋼石』国一つ滅ぼす炎竜を宿す橙石。『聖霊美歌』人の心を癒し、どんな重症重傷をも直す透明石。『雷天銅石』雷神が宿りし、雷鳴を轟かす黄色石。『水零の都』海竜を宿し、大海を操る水色石。『緑の妖精』風神を宿し、荒れ果てた戦場を森林にした緑石。『大地天土』大地を揺るがし、大地震を起こす土色石。『時転光闇』時を旅する紫色石。
 どれも簡単に手にする事はできない。
 彼は考えた。どうすれば手にできるか?どこにあるのか?その全てを手にするまでの時間はどれくらいかかるか?それを探すのに自分の体力が持つのか?
 彼はある名案を思いついた。
 奴隷を造ろう…。
 そして、彼はキメラを造りだした。だが、彼らには知能がない。これではいつまで経っても秘宝は集まらない。
 彼はまた悩んだ末、また新しき奴隷を製造した。
 意志を持ち、知能を持つ、自分に近い存在…。
 人造人間ホムンクルス…。
 しかし、彼らは不完全な存在。五日も持たず死んでしまう。
 また、彼は悩んだ。そして、愛しい彼女を救うため彼は悪魔に身を寄せる事にした。
「人間を食らえ。人間の命をエネルギーとせよ」
 彼は彼らに言いつけた。
「八つの秘宝を見つけて来い」
 彼らは主の命を受け、どこにあるかもわからない秘宝を探し求めた。

 秘宝は一つの場所に集められた。
 しかし、それはデイズ・フラスコの下ではない。
 あの大戦中に消えた錬金術師の下だった。
 彼は八人の弟子と共に全ての秘宝を集めたのだ。
 世界は荒れ狂っている。ホムンクルスが多くの人間を食らった。
 もし、秘宝がデイズ・フラスコに下に渡れば、世の破滅と彼は考えた。
「お前達、わかっているだろうが、秘宝がやっとのこと揃った…。デイズにこの秘宝が渡れば世の破滅。そうなる前に秘宝共々、お前達を転生する…」
「わかっております」
「すまない…。私に力があれば」
「師匠のせいではありません」
「…ありがとう」
「では…師匠」
「…ああ」
「「「今までありがとうございました」」」
「ああ、こちらこそありがとう」
 彼は涙涙にそう言うと、弟子達に体内に秘宝を埋め込んだ。
「「「…さようなら」」」
「ああ、さらばだ。来世で会おう」
 彼は弟子達に禁忌の術『転生』をかけた。
 そして、次の瞬間、弟子達はこの世から消えうせた。

 彼もまた、事切れた…。


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